権利金なし・低額地代の借地権、
相続税評価はどう判定するか

― 相当の地代・通常の地代と「使用貸借か賃貸借か」の分岐点 ―

この記事の位置づけ
昔から続く借地で「権利金の授受がなく、地代もそれほど高くない」というケースは少なくありません。相続税の場面で、借地人側の借地権をいくらで評価するのか(あるいはゼロなのか)は、実は地代の水準ひとつで結論が大きく変わります。本記事は、その判定の考え方を一般論として整理したものです。特定の個別案件を述べるものではありません。

1. まず結論の地図:答えは両極に振れる

権利金なし・地代低めの借地権は、結論が次の二択に振れやすい類型です。

パターン借地人側の借地権土地(地主側)
使用貸借(地代がごく低額)ゼロ評価自用地として100%評価
賃貸借(対価性のある地代)原則フル評価(自用地価額×借地権割合)貸宅地として評価

分かれ目は「実際の地代が固定資産税・都市計画税の相当額と比べてどの水準か」。ここがこの論点の心臓部です。

2. 借地権評価の基本

建物所有目的の借地権は、次の式で評価します(財産評価基本通達27)。

借地権の価額 = 自用地としての価額 × 借地権割合

借地権割合は路線価図のアルファベット(A〜G)で示されます(例:Dなら60%)。「権利金を払っていない=借地権ゼロ」ではない点が出発点です。権利金の慣行がある地域で権利金も相当の地代もない場合、むしろ権利金相当の経済的利益が借地人に移っていると見る方向に働きます。

3. 「相当の地代」「通常の地代」と按分の考え方

地代の水準で借地権評価を調整する仕組みがあります(相当の地代を支払っている場合等の取扱い・昭和60年6月5日付直資2-58)。

用語定義(おおむね)
相当の地代自用地価額(課税時期前3年平均)× 年6%
通常の地代自用地価額 ×(1−借地権割合)× 年6%

実際の地代が「通常の地代」と「相当の地代」のにあるときは、次の按分式で借地権が減額されます。

借地権 = 自用地価額 × 借地権割合 × { 1 −(実際の地代 − 通常の地代)/(相当の地代 − 通常の地代)}

つまり地代が高いほど借地権は小さく評価される、という連続的な関係です。

4. 実際の地代が「通常の地代」より低いとき

では、実際の地代が通常の地代すら下回る(より低額)の場合はどうなるでしょうか。按分式の分子(実際の地代 − 通常の地代)がマイナスになり、カッコ内は1を超えます。

考え方
借地権割合を超える評価は想定されていないため、上限を1とみて、結論は自用地価額×借地権割合のフル評価でとどまると整理するのが自然です。「地代が安いからもっと減額できる」わけではない、という点に注意が必要です。

ただしこれは「賃貸借=借地権が存在する」ことが前提の話です。地代があまりに低いと、次章のとおりそもそも借地権が無い(使用貸借)という別の疑問が立ち上がります。

5. 本当の分岐点:使用貸借か賃貸借か

地代が固定資産税・都市計画税の相当額程度以下にとどまる場合、借地権の存在自体が否定され、借地人側はゼロ評価・土地は地主が自用地100%評価となり得ます(使用貸借に係る土地の取扱い・昭和48年11月1日付直資2-189)。

実務上の目安(確定基準ではありません)

実際の地代の水準方向性
固定資産税・都市計画税の相当額(1倍)程度以下使用貸借寄り(借地権ゼロ)
固定資産税等のおおむね3倍程度以上賃貸借寄り(借地権あり)
その中間グレーゾーン(総合判断)
数値だけで決まるわけではない
地代が固定資産税等を上回っていても、契約書の有無・地代の算定根拠・当事者の関係などを総合して使用貸借と判断された裁決例もあります(平成13年9月27日裁決)。逆に、契約書があり・存続期間が定められ・更新料の授受があるといった事情は、賃貸借(対価性のある契約)と評価する方向に働きます。

※ なお、当事者の一方が法人の場合は「土地の無償返還に関する届出書」の有無が重要になりますが、純粋な個人間の貸し借りでは、この届出は中心的な論点になりにくいと考えられます。

6. 固定資産税評価額が手元にないときの概算法

判定の鍵は固定資産税ですが、評価額の資料が手元にないこともあります。その場合、価格水準の関係から概算できます。

固定資産税評価額(概算)= 相続税路線価 ÷ 0.8 × 0.7 = 相続税路線価 × 0.875

相続税路線価は公示価格の約80%、固定資産税評価額は約70%という一般的な水準関係を使った概算です。

住宅用地の特例で年税額は大きく変わる

居住用建物が建つ土地(200㎡以下の部分=小規模住宅用地)には課税標準の特例があり、固定資産税は6分の1、都市計画税は3分の1に圧縮されます。建物があるかどうかで、年税額(=比較の分母)が数倍違ってきます。

条件分岐に注意
  • 居住用建物あり(特例が効く):固定資産税等が小さくなるため、同じ地代でも倍率は上がりやすい → 賃貸借寄りに傾きやすい
  • 更地・非居住用(特例なし):固定資産税等が大きいため、地代が固定資産税を下回りやすい → 使用貸借寄りに傾きやすい

※ 概算は評価替えや負担調整措置でずれます。確実な判定には固定資産税課税明細書(実額)の確認が最も効きます。

7. 「固評の資料がないから借地権ゼロでよい」は危険

よくある誤り
「固定資産税評価額の資料がない(不明)」ことと、「固定資産税相当額以下の低額地代だから使用貸借だ」ということは、まったく別の問題です。前者は単なる資料不足にすぎません。

資料がないことを理由に借地権をゼロ計上すると、実態が賃貸借(フル評価すべき)だった場合に評価漏れ=過少申告(修正申告・加算税・延滞税)のリスクを負います。ゼロとするなら「資料がないから」ではなく、「実態が使用貸借であると確認できたから」という根拠を備えるべきです。

前章の概算では、地代がむしろ固定資産税を上回る(賃貸借寄り)と出ることも珍しくありません。安易なゼロ評価は禁物です。

8. 判定フロー(まとめ)

  1. 無償返還の届出を確認:提出ありなら借地権ゼロ。個人間なら通常この論点は中心でない。
  2. 使用貸借か賃貸借か:実際の地代と固定資産税・都市計画税相当額を比較。契約書・更新料・対価性も総合判断。
  3. 賃貸借なら按分の要否:実際の地代が通常の地代を下回るならフル評価(按分減額の余地なし)。
  4. 結論:居住用建物が建つ通常の住宅地ならフル評価が有力。更地・非居住用で地代が固定資産税を下回るなら使用貸借ゼロの可能性。
確定のために取りたい資料(優先順)
  • 固定資産税課税明細書(実額の評価額・年税額。最重要)
  • 借地上の建物の有無・用途(住宅用地特例の前提)
  • 賃貸借契約書の原本(権利金・更新料の実際の授受)
  • 地積の確認(評価上の地積と契約上の地積の整合)

引用根拠

通達財産評価基本通達27(借地権の評価)

通達相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和60年6月5日付 直資2-58)

通達使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和48年11月1日付 直資2-189)

裁決平成13年9月27日裁決(地代水準のみでなく総合判断で借地権の有無を判断した例)

本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、特定の個別事案についての税務判断・助言を行うものではありません。借地権評価は地代・固定資産税・契約の実態・地域の慣行等により結論が変わります。実際の申告にあたっては、固定資産税課税明細書等の資料を確認のうえ、税理士等の専門家に個別にご相談ください。記載の通達番号・取扱いは作成時点の情報に基づきます。